直木賞を受賞した短編集、伊良部シリーズ2作目の「空中ブランコ」に登場する、伊良部先生の魅力が詰まった名セリフを集めてみました。
「空中ブランコ」名セリフ・名場面集
*見出しは作品のタイトルです。
1:空中ブランコ(表題作)
「うん。中途半端はよくないしね」
奥田英朗「空中ブランコ」
空中ブランコの練習に失敗し、「まだやるんですか?」と聞かれた後に伊良部先生が放ったセリフです。普段適当な先生が見せる無邪気で純粋な姿勢にグッときます。
「この人、メンタル面とフィジカル面の性能差が極端なんだよな…」
奥田英朗「空中ブランコ」
伊良部先生はブクブク太った体型です。にも関わらず「空中ブランコをやる」と言い張り、少しの恐怖心も見せず飛ぶ姿に、作中のサーカス団員たちは興味津々です。
「ところで山下さん、不眠はどうなったわけ?」伊良部が利いた。
「薬のおかげで眠れてますけど…」
「ごめん。前に処方したの、ただの整腸剤だった」
奥田英朗「空中ブランコ」
診察も治療も適当適当。にも関わらず、患者さんの悩みは毎回しっかり解消されています。
皆大好き伊良部先生。
ハリネズミ
「ああ、行くといいぜ。おれの主治医は名医だから」
奥田英朗「ハリネズミ」
やくざなのに先端恐怖症であることを情けなく思う患者さんの心も軽くしてしまいました。
奥田英朗さんの作品はハッピーエンドというか、ハートフルエンドみたいな終わり方をするものが多いので、読んでいて心がぽかぽかします。「ハリネズミ」もそのうちの1作、是非読んでみて下さい。
義父のヅラ
大学時代から伊良部は話題の宝庫だった。行動のすべてが変なのだ。…(中略)…中庭の池の鯉は、すべて伊良部に食べられたという話だ。
奥田英朗「義父のヅラ」
吹き出してしまった箇所です。
ほう。達郎は、伊良部が意外と進歩的なのに感心した。
奥田英朗「義父のヅラ」
意外と勉強もしている(?)伊良部さん。
「性格っていうのは既得権だからね。あいつならしょうがないかって思われれば勝ちなわけ」
奥田英朗「義父のヅラ」
「なんでおまえがこんなことに首を突っ込むんだ」
「だって面白いじゃん」
伊良部が鼻の穴を広げる。なんだか頼もしく思えてきた。
奥田英朗「義父のヅラ」
「人生、長いよ。今のうちに吐き出すものを吐き出しておかないと」
奥田英朗「義父のヅラ」
感心してしまうような的を射た言葉や、肩の力が抜けるようなセリフを我々に与えてくれます。
ホットコーナー
「ホットコーナー」は野球用語で「三塁手、サード」を意味します。
「大丈夫だよ。命に別状はないし」
奥田英朗「ホットコーナー」
ピッチングどころかバッティングまで覚束ない状態になり焦る患者に放った一言です。
この作品はイップスになってしまったプロ野球選手のお話なのですが、ラストの草野球のシーンでは伊良部先生のこのセリフを思い出しながら気持ちを軽くし、回復へ向かう様子が描かれています。
子供とのキャッチボールのシーンが本当に素敵なので是非読んで欲しいです。
いや、もしかすると人間かどうかも怪しい。総合病院の地下室に棲みついた子供の妖怪。迷い込んだ患者を相手に遊んでいる—。
奥田英朗「ホットコーナー」
伊良部先生を的確に表す秀逸な描写。伊良部の異常さに呆れた患者さんの言葉ですが、私はこの文が伊良部シリーズの中で一番好きです。
女流作家
この作品は伊良部先生よりも、患者の親友でフリー編集者の中島さくらさんが目立っていました。
冗談や皮肉は心地よく、そして患者が回復するきっかけとなった出版社でのセリフには読者の私まで元気にしてくれるようなエネルギーがありました。
また、伊良部先生のパートナー看護師であるマユミちゃんも活躍するお話にもなっています。
まとめ
いかがだったでしょうか。
他にも気持ち良いセリフや場面がたくさんありますので、是非手に取って読んでみて下さい。
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