特に「黒い家」で有名なホラー作家、貴志祐介さんの名著「天使の囀り」が面白すぎたので、ネタバレを避けつつ感想を書きます。
ジャンル
ホラー小説なのですが、中でも本作は「バイオホラー」というジャンルに属します。
この単語だけで既にゾクゾク・ワクワクしてしまうのは私だけでは無いはず。
アマゾンを探検するグループの一員によるメールから始まる本作は、魅惑的で恐ろしい現象が多く起こりますが、それらの謎は物語の中で科学的に解き明かされていきます。
読者の多くが、ファンタジーと科学の融合により創出される恐怖の虜になってしまうでしょう。
おすすめポイント
科学に基づいた”怖さ”
「天使の囀り」で描かれるホラーは科学理論に基づいています。
「ホラー小説」と聞くと、霊的なものが怖い現象を引き起こして登場人物越しに読者を震え上がらせにくるようなものを思い浮かべる方も多いと思いますが、「天使の囀り」で出てくるホラーは、ファンタジー要素を多少含むものの、大部分は極めて科学的です。
「豹変する人間」「不可解な自殺」など、描写だけでも十分に不気味で恐ろしい現象が起きた後に、それらの原因が、具体的な科学の理論の積み重ねによって判明していきます。
ロジカルに、着実に積み上げられていく”怖さ”が、本作ないしは「バイオホラー」の醍醐味の一つなのではないでしょうか。
グロテスクなシーン
物語の終盤では、かなり衝撃的なシーンが待ち構えています。
そこだけ読んでも十分すぎるくらい恐ろしいのですが、嬉しい(残念な?)ことに、その時点で読者は、それが何によってどのようにして生み出されたのかをバッチリ理解してしまっているのです。
ただ恐ろしい場面を文字で追いながら脳内に描いていくだけで留めることは出来ないでしょう。
「この状態ってことは、あれがあーなって、この段階になって。。」と、その怖すぎる科学的な背景を反芻してしまうことになるはずです。
“学び”がある
とか書くと途端に薄っぺらく聞こえるかもしれませんが、バイオホラーの「バイオ(生物学)」部分の説明や、哲学・芸術に関する描写など、具体的な恐ろしさを演出するためだとは思いますが、非常に手厚く解説されており、ちょっとした学術的な面白さも味わうことが出来ます。
地味におすすめポイントです。
秀逸なサブストーリー
本筋の話の支え(?)の役割なのか分かりませんが、村上春樹的な構造で、2つの話が同時に進む箇所があります。
当然、中終盤にかけてそれらのストーリーはリンクしますが、サブストーリーの方に出てくる変態ゲームが大好きなフリーターのオタク青年の私生活を描く場面がやたら具体的で、なぜかものすごく楽しく読んでしまいました。
また、彼の末路で涙する人もいるかもしれません。とても素敵なシーンだと個人的には感じました。
終わりに
あらすじにすら触れずに面白いポイントを列挙してしまいましたが、「ちょっと読んでみるか」と思ってもらえたら嬉しいです。
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