約16年ぶりに、とんでも精神科医伊良部さんが復活しました。
「伊良部シリーズ」は、風変わりな精神科医伊良部一郎が、患者たちが抱える様々な悩みををユーモア溢れる破天荒なやり方で解消(?)していく短編小説集です。
このシリーズは過去に3冊出版されており、著者の奥田英朗さんはこのシリーズ2作目の「空中ブランコ」で直木賞を受賞されています。
今回は勝手ながら、最新作「コメンテーター」の出版を記念して、伊良部シリーズの1作目「イン・ザ・プール」から、ふとしたときに伊良部が発する心が軽くなるような名セリフを紹介していこうと思います。
伊良部の名セリフ集~「イン・ザ・プール」より
※見出しは作品のタイトルを表しています。
1:「イン・ザ・プール」(表題作)
「つまりストレスなんてのは、人生についてまわるものであって、元来あるものをなくそうなんてのはむだな努力なの。それより別のことに目を向けた方がいいわけ」
奥田英朗「イン・ザ・プール」
体調不良を訴える患者さんを「ストレスの原因とか聞かないから」と冷たくあしらう伊良部がその理由としてさらりと放ったのがこのセリフです。
現代日本ではストレスに対するHow toが流行っている気がします。youtubeやtwitter、ビジネス書など多くの情報源で、「ストレスをなくす方法10選」や「人間関係のストレスを解消する考え方」といったコンテンツが数多くヒットしていますが、実際に楽になったという人は数少ないのではないでしょうか。
「イン・ザ・プール」は20年前の作品ですが、このセリフはストレス過多な現代人に刺さるメッセージだと思います。「そういうもんだよ」と言われれば「そういうもんか」と肩の力を抜くことが出来る。死ぬわけでも痛いわけでもないし、考え方1つで悩みが悩みじゃなくなることもあるかもしれません。
伊良部は決して真面目な医者ではありません。しかしある種の一貫性があり、「楽観的」という態度がその1つです。診察は適当、行動は自分本位、そんな彼のふとした一言が患者さんの心を軽くするという場面が本シリーズでは数多く出てきます。このシリーズや「家日和」もそうですが、奥田さんの短編はほとんどがハッピーエンドで、心温まるものばかりなのでとても癒やされます。
2:「勃ちっぱなし」
「ま、人間の体なんてのは宇宙より不思議だから、深く考えないのも手だけどね」
奥田英朗「勃ちっぱなし」より
奇病にかかり、深く悩む患者さんに言い放った伊良部のセリフです。
これまた楽観的ですよね。しかし「宇宙より不思議」という壮大なことを言われてしまったら、自分の悩みなんて些細なことに感じてしまうかもしれません。こういう素敵な言葉がさらっと出てくる伊良部さんが好きです。
3:「フレンズ」
「淋しいよ」
「一人がいいの。らくだし」
奥田英朗「フレンズ」より
これは伊良部の助手のマユミという美人看護婦のセリフです。
携帯依存症で、常に連絡を取っていないと仲間はずれになるんじゃないかと思い悩んでいる高校生の「友達はいないのか」「淋しくないのか」という問いに対しての返事がこれらのセリフでした。
単純ながら、ドキッとしてしまう言葉だと思います。
「一人でいるのが一番らくで快適だ」と感じている人は少なくないでしょう。私もそのうちの一人です。一人で延々とアニメを観たり本を読んだりしている時間が好きだし、その時間は非常に心地よい。
しかしながら、ときおり淋しいと感じるのもまた事実です。
先に紹介した伊良部のセリフと同様に、マユミのこのセリフも「淋しい」というネガティブな感情に対して、「そのままでいい」と言ってくれているように感じます。
4:「いてもたっても」
みんなが伊良部のようなら、きっと地球上の悩み事の大半は雲散霧消することだろう。
奥田英朗「いてもたっても」より
だったら伊良部の精神科医も転職だ。人を深刻にさせない天性のキャラクターだから。
奥田英朗「いてもたっても」より
短編集「イン・ザ・プール」の最後に収録されたお話の中で、何に対しても不安になってしまう患者さんが伊良部に対して感じたことです。
伊良部のキャラを特徴づけるちょうど良いフレーズだと思いました。
このお話に登場する患者さんは、最後まで不安障害を治すことは出来ませんでした。しかし、伊良部との出会いをきっかけに、そこまでネガティブにならなくてもいいんじゃないかと考えられるようになりました。
精神科医伊良部一郎、やはり名医ですね。
まとめ
伊良部シリーズの1作目「イン・ザ・プール」の名セリフを紹介させて頂きました。
ストーリーも気になるという方は是非本を手にとって見てください。きっと今よりもっと肩の力を抜いて生きていけるようになると思います。
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